ちいさい生き物は、命が短い。おやゆび姫はこれまでの人生で、漠然とそのように感じていました。うかうかしていると、あっという間にこの世から消えてしまいかねない。だから思い立ったら、すぐ行動しなければならない。おやゆび姫はすぐにツバメを呼びました。ツバメは、おやゆび姫を王子様に引き合わせてからデンマークに行っていましたが、少し前からこの地に戻ってきていました。おやゆび姫は、もとの家に帰りたいこと、ついてはまずはお詫びを伝えるため野ネズミのおばさんのところまで送ってほしいことを頼みました。ツバメは、王子様がこんなにも早く亡くなってしまったことに驚き、ふたりを引き合わせたことを申し訳なく思ったので、こころよくその申し出を受けたのでした。
長い空の旅を終えて、ツバメは見覚えのある麦畑の一角におやゆび姫とともに降り立ちました。そこに、あの親切な野ネズミのおばさんが住んでいるはずです。おやゆび姫は入り口を見つけ、ノックしました。が、何の返事もありません。そっと覗いてみると、ベッドに虫の息のおばさんが横たわっていました。
「おばさん、おばさん、おやゆび姫です。覚えておられますか」
おやゆび姫が声をかけると、野ネズミのおばさんは力なくゆっくり目を開け、再会に感動する気力もない様子で弱々しくこう言いました。
「ああ、あんたか・・・、長い間いったいどこに行ってたのかね・・・。いや、それはもういい・・・、あたしはね・・・、あんたに幸せになってほしかったんじゃ・・・。一文無しのあんたは、お金持ちのモグラと結婚して不自由のない生活をすれば、幸せになれると信じておったんじゃ・・・。でも、あんたはそれを望んではいなかったんじゃね・・・。あたしの思い込みで・・・、申し訳ないことをしてしまった」
一生懸命話すおばさんを目にして、おやゆび姫は思わず涙ぐみながら言いました。
「いえいえ、私こそ何も言わず出て行ってしまって申し訳ございませんでした。モグラさんはどうされていますか」
「かわいそうにモグラはあの後すぐ、人間のワナにかかって・・・、殺されてしまったんじゃ・・・。いくらお金があっても、命あってのことじゃわね・・・。あたしももう長くないし、あんたは・・・、別のいい世界で幸せに暮らしておいで」
命の灯が消えようとしている際にあっても、身勝手だった自分の幸せを望んでくれているおばさんの言葉を聞き、おやゆび姫はあらためて罪の深さを思い知るのでした。モグラにしても、悪いことをしたわけでもないのに悲惨な末路を迎えたことは、どこか自分にも原因があるのではないかと疑ってしまいます。このまま何もせずにここを立ち去ることはできない。今こそ罪滅ぼしをしないといけない。