小説

『私だけのエナメル』柿沼雅美(『赤い靴』)

 たとえ今に至るまで一体何が原因でこれからどうなるかなんて明確でなかったとしても、私は私に振り回されるわけにはいかないんだ。そう思った。
 力一杯包丁をめり込ませると、ぐにゃりとした感覚がした。ふとももからはギギギギと音がして、止んだ。人形の左足が転がり、追うようにして右足も転がっていった。 私は私がどうにかしなきゃいけないんだよ、と言いながら両足を失った人形を見下ろした。
 赤いエナメルの靴は切り離された足首から脱げることなく、転がる足がまだ踊りながら進みたがっているように見えた。

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