「そうです。私は地球の日本というところから来たのですが、ちょっとした、いえ、結構な確率の事故のせいで、宇宙で一人になってしまいまして」
「ほほう。よくご無事で」
「ええ、そのところに偶然このバスが通りかかりまして」
「なるほど。日本語でいうところの運のツキ、とならねばいいですね」
男性は笑顔で応答してくれる。
「失礼でなければ、あなたは地球出身ですか?」
「いえいえまさか。現在の地球の文明では理解が難しいと思うので詳しくは説明しませんが、遠い星出身、と思っていただいて差支えないでしょうね」
「そうですか。失礼な言い方になってしまうかもしれませんが、宇宙人、という方々ですね。お会いできて光栄です」
彼女はよくわからない現状を、とにかく全力で楽しむことにした。
「しかし我々と似たような外見というのも、本当に不思議な話です」
「いえ、これは似せているだけで正体は違います。地球で生活しやすいように、この恰好をしているだけです」
「もしかして、すでに何人かあなたの星の人々は地球に?」
「その通りです、何百という数ですけどね。その仲間から連絡がありまして。なんでも、いい星だそうですね」
楽しみだ、という感じで男性は答える。
「ええ、ありがとうございます。宇宙人の方々にも気に入っていただけるとは思ってもみませんでした」
と、緊張がほどけたのか。彼女のお腹の音がバスの中に鳴り響いた。
「あっ、失礼しました。今まで何も食べていないものでして」
「はは。その椅子のボタンを押せば好きな食べ物がでてきますよ」
「これですか? ……えっ?」
言われるがまま、椅子の前についている赤いボタンを押した。すると一秒もしないうちに彼女の目の前にテーブルと、まるで準備してあったかのようにアツアツのラーメンが現れた。
「ほほう、それが地球人の食事ですか」
「はい。貴方は、地球でなにか御馳走でも召し上がる予定でしょうか」
「そうですよ。なんでも、人間がいっぱいいるそうですからねえ。そろそろ、我々もお腹が空いてくる頃合いですから……」
「ええ、色んな人々が様々な暮らしをしておりますので、地域によって様々な味が楽しめますものね」