小説

『銀河夜行バス』Mac(『銀河鉄道の夜』)

 指さす先の運賃箱には、赤文字で何か書かれている。おそらく『無料』という意味なのだろうが、彼女にその言語を解読することはできなかった。
「まあ、なんと素晴らしい」
「いえいえ、この系統はそういうバスですので」
「では乗らせていただきます」
 そうと決まれば乗らない手はない。
「はいはい、どうぞどうぞ。あ、お足下にご注意くださいね。バスの中は引っ張られますから」
「ありがとうございます。おっと」
 バスに入ってみると、確かに体が床に引っ張られた。地面を踏みしめるこの感覚。体にまとわりつくこの重力。彼女は感動した。
「おっと。地球人さん、その恰好では窮屈でしょう」
 運転手が貴音にリモコンのようなものを向けてボタンを押すと、今まで着ていた宇宙服がそのリモコンの中へと吸い込まれていった。
「なんですか、今のは」
「お手荷物はこちらでお預かりさせていただきますので。どうぞ目的地までおくつろぎくださいませ」
 どういうわけか、このバスの中は宇宙服なしでも息ができるし、寒くも暑くもない。ああいった技術があるなら、この程度は朝飯前といったところか。彼女は恐る恐る中へと進んでいく。
『お待たせいたしました。それでは発車いたします。皆様席におつき下さいますよう、よろしくお願いします』
 彼女はとりあえず後ろのほうに座ろうと奥へと歩み続ける。
 中には彼女以外誰もいない……と思いきや。
 後ろから一つ手前の席の運転席側。そこに、一人だけ乗客がいた。
 彼は運転手とは違い、金髪の白人男性だと断定できる外見をしていた。もしかして自分以外にも地球人が乗っているというのか。
 彼女は男性の隣の椅子に座り、通路越しに話しかけてみた。
「すみません、日本語はわかりますか」
「日本語。はい、地球の言語ならある程度はわかりますよ」
 男性はいきなり話しかけてきた彼女にも優しく微笑みかけた。
「あなたも、地球に行かれるのですか?」
「はい、あなたもですか?」

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