小説

『銀河夜行バス』Mac(『銀河鉄道の夜』)

「これは……」
 それは、田舎によくあるようなバス停だった。一体なぜこんなところに。わざわざ誰かが捨てたということもないだろうし、何かの部品とも考えにくい。一番しっくりくるのは、ここがちゃんとしたバス停、そう考えるのが当たり前といわんばかりに、堂々と浮かんでいた。
(バス停の名前……)
 見たこともない文字で書かれている。ただ確実なのは、日本語ではない横文字で何かが書かれてある、ということだけだ。
(しかし、こんなところにバスが来るのでしょうか)
昔、宇宙を走る列車があると話にきいたことがある。ということは、別に宇宙をバスが走ってもよくはなかろうか。
(現に宇宙を走る船に乗ってきたわけですし)
 そしてそれから落ちたわけですし。
(これも一興。本当に来るかどうか試しに待ってみましょうか)
 幸いなことに、時間を費やすだけの余裕がある。それも死ぬまで。

 ふよふよと漂いながら待つこと、数時間。もしかしたら数日かもしれないし、数分かもしれない。もう時間など、何の意味も持たない。
 しかしそんな彼女の虚ろな瞳に、大きな変化が映った。遠くから流れ星のように、光の塊が迫ってくるのだ。
 あれは、一体。
 近づくにつれ、彼女にはそれが何かはっきりと分かった。
 バスだ。
 駅なのだから、バスが来るのは当たり前といえば当たり前なのだが。やってきたバスも黄色をベースとした年代物のバスだ。
(なんと、宇宙には侘びだけでなく寂びもあるのですね)
 誰かが運転していることだろうが、ライトのせいで運転席が見えない。そのバスはおそらく彼女の存在を認識してか、それとも誰か降りる人がいるのか。次第に速度を落としていき、バス停の前で止まった。
『第一一二三五鉄くず横ー、鉄くず横でーす』
 バスからそのような日本語のアナウンスが響く。そしてバスの前方に一つだけついているドアが開き、バスの中身が彼女の目に入る。

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