小説

『ネズミの相撲』長月竜胆(『ネズミの相撲』)

 長者の家で大量の団子を見つけた大ネズミはすぐに仲間たちへ知らせる。その日は町中のネズミが長者の家に集まり、朝まで楽しい団子パーティーとなった。一息ついてから小ネズミが大ネズミに話しかける。
「長者さんもたまには良いことするんだね。何かお礼がしたいけど、どうしようか?」
「何せお金は腐るほどあるわけだから、小判じゃ喜ばないよね」
「僕はいつもお爺さんとお婆さんに木の実をあげているんだ。長者さんもそれでいいかな?」
「うん、それがいいね」
 こうしてネズミたちは、感謝の気持ちを込めて木の実をたくさん集めた。
 翌日、大量の小判を期待していた長者は愕然とする。団子が全てなくなった代わりに、木の実が山積みにされていたのである。ネズミたちの善意など知る由もない長者は大層腹を立てた。そして、あろうことかネズミを一匹残らず駆逐してしまおうと猫を数匹飼い始める。
 この思わぬ事態に、ネズミたちの間では緊急会議が開かれた。
「猫は自由に歩き回るから、もう町に安全な場所はない。長者さんの家を避ければ良いという問題ではないわけだ」
「今こそ特訓の成果を見せる時、ということだね」
「そうだ。今の僕らなら猫にだって負けないさ」
「よし、やろう!」
 ネズミたちは一致団結して戦う覚悟を決めた。皆で長者の家に乗り込むと、果敢に猫に挑んでいく。お爺さんとお婆さんの作った団子を食べながら、日々相撲の稽古に励み続けたネズミたちは、いつの間にか凄まじい力をつけていた。猫を相手に一歩も引かず、激闘を繰り広げる。猫の方もプライドのためか、簡単には諦めようとしなかった。長引く戦いの影響は、次第に長者の家にも及び始める。家の土台や骨組みはボロボロになり、至る所が軋み始めた。そして、一際大きな衝突があった際、ついに長者の家は耐え切れず崩れてしまった。それと同時に猫たちは逃げ出し、ネズミたちの勝利が決まる。誰も知らないところで、ネズミたちは静かな雄叫びをあげた。
 その後、大ネズミや仲間たちは、小ネズミと共にお爺さんとお婆さんの家に住み始める。不思議なことに、大きな地震や台風などの災害に見舞われても、お爺さんとお婆さんの家はいつも無事。また、畑が動物に荒らされることもなくなった。噂によると、あの家には恐ろしく強い守り神がついているという。

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