小説

『ネズミの相撲』長月竜胆(『ネズミの相撲』)

「最近、君は急に強くなったね。何かあったのかい?」
「お爺さんとお婆さんが毎日美味しいお団子をくれるんだ。そのおかげだよ」
 小ネズミはこれまでの経緯を話して聞かせた。
「君のためにお団子を用意してくれるのか。優しい人たちだね。僕も食べてみたいなあ」
「うーん……うちはお金持ちじゃないから、お団子もそんなに多くはないと思うんだ。半分で良ければ、僕の分をあげるけど」
「それなら良い考えがあるよ。うちの長者さんはお金持ちで『金は腐るほどある』ってよく言ってるんだ。そんなにあるなら持ち出しても構わないでしょ。腐ったら勿体無いし」
「そうだね。それならお爺さんとお婆さんもお団子をたくさん作れるようになるよ」
 こうして、大ネズミと小ネズミは長者の屋敷から小判を持ち出すと、お爺さんとお婆さんのところへ持っていった。
 翌朝になって、お爺さんとお婆さんはとても驚いた。いつものように穴の前を確認すると、団子がなくなった代わりに一枚の小判が置かれている。これはどういうことだろうかと二人が不思議がっていると、小ネズミと大ネズミが穴から顔を出した。
「おお、友達を連れてきたのかい」
「それなら今日はお団子が二つ必要ね」
 お爺さんとお婆さんは二匹のために団子を二つ用意する。
 小ネズミと大ネズミは仲良く団子を食べながら楽しく語り合った。
「美味しいなあ。これなら君が強くなったのも分かる気がするよ」
「君もこれを食べていればもっと強くなれるかもね」
「うん。皆にも食べさせてあげたいなあ」
 それからというもの、美味しい団子の話はネズミたちの間で広まり、次々とお爺さんとお婆さんの家に集まってきた。ネズミたちは一匹につき小判一枚を長者の家から拝借し、団子の料金として支払う。お爺さんとお婆さんの生活はどんどん豊かになり、ネズミたちのために美味しい団子を作り続けた。
 お爺さんとお婆さんが急に以前より裕福になったという噂は、ちらほらと町の中でも囁かれた。その話に誰より飛びついたのは強欲な長者である。二人の家にしつこく通ってネズミの話を聞きだすと、真似をして団子の用意を始めた。二人に負けないよう上等な米を使い、小判がたくさん集まるように大量の団子をこしらえる。まさか小判の出所が自分の家だと夢にも思わない長者は、ネズミたちが小判を持ってくるのを楽しみに待った。

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