葬儀は父方の親戚にほとんどをお任せした。葬主は双子の兄だったが。
家族四人と兄の恋人の遺体は見せてもらえなかった。棺も閉じられたままだった。骨拾いも出来なかった。「みんなただ消えてしまったみたいだ」と双子の兄は言った。
読経の中、私は二つの予知をした。
一つは、父に汚職の濡れ衣がかけられるという予知だった。
父は一流の航空会社で経理を務めるエリートだったが部署で大規模な汚職があり、死んで口無しの父に色々な責任を押し付けていくらしい。その内その嘘はばれて部署全体が追及されていくが、それまでは私達遺族親族に様々な嫌がらせが起きる。
もう一つは私が自殺するという予知だった。
どこかの建物の屋上からひらりと飛び降りる。私は笑っていて、地面に叩きつけられた私の躯から血が飛び散って、アスファルトに血溜まりをつくる。そんな、予知。
この2つの予知に、私の心はあまり動かなかった。かつての幸せの一角を形作っていた父の像が社会的に貶められ汚されることは幸せが壊れ続けるのを視続けた私の心に全く響かなかったし、私の死も、家族という幸せが崩れた今、私自身が終わりに向かっていくということは当然のように思えた。
家族にこそ自分のことを全力で隠してきた私にとって、私の心の中で占める家族への思いの部分は大きかった。その家族がほとんどいなくなってしまって、私の心は内側に大きな穴が開いていた。
私の心はたった2つの陰惨な予知ではもう動かない、否、動けない。
伽藍洞に響くのは読経の声と、兄に対する私の無声の後悔だけ。
遺品の整理というものをやらなければいけなかった。
そして、父の遺品を整理している時、恐ろしい事を発見してしまった。
父の私室のタンスの奥、人目を憚る様にして隠されていた手帳があった。
これまで整理してきたノートや手紙の様に、私は中身を読むため手帳を開いた。すると、折り畳まれた紙がページの隙間から落ちた。
その紙を開いた私は、最初その書類が何か解らなかった。しかし、徐々にその書類に書かれている事の意味が解って来た。
その書類は、親子鑑定の結果の紙だった。私の父と、新しい兄の。
そして、確かにその書類は、私の父と新しい兄が親子であったことを明記していた。
慌てて手帳を読むと、信じられなくて胸が悪くなるような事が書かれていた。