そして、旅行の日取りが決まり、飛行機のチケットを取り、後は旅行の日を待つだけになって、新しい兄の恋人の用事で飛行機の便を変えることになった。
母がインターネットでチケットを取り直しているのを見たとき、私はそれまでで最悪の予知をした。
夜、炎上し山間部に墜ちていく飛行機の予知を。
どう考えても、母達が乗って行く飛行機だと思った。そして、何とか回避できないかと私は母に便を変えたらどうかと言ってみた。
母は、兄の恋人の用事とホテルへのチェックイン時間の兼ね合い、そして空席状況からこの便しかないから無理だと言って、また旅行に行かない私がなんで飛行機の便のことに口出しするのかとも聞いて来た。
これを聞いたとき、私の中で何かが壊れた。
飛行機の便を変えたから恐らく母達は死んで、家族に不幸が訪れる。恋人の用事があったから飛行機の便を変えた。また、旅行に行くことにしたから母達は飛行機事故で死ぬ。兄の恋人がいたから旅行に行くことにした。新しい兄がいたから兄の恋人が家に来た。
新しい兄へのあの予知の理由が解った気がすると共に、諦めが、恐怖による緊張の糸を断ち切ってしまった。
もう、どうしようもないほど、母達がずっと死に向かって敷かれた線路の上を走っていた事が解ってしまって、哀しみと虚無、そして弛緩した諦念が胸に広がっていった。
私がそれまで抱いていた終わりへの恐怖は的外れなものだった。
終わりは、向こうからやって来るものではなく、私達が近づいて行くものなのだから。
それから、私はどこか無感覚な心を抱えて日々を過ごした。
学校や家で普通に過ごしていても、感情のどこかのスイッチが切れていて、常に気だるい感じがした。そのおかげでいつも通りの様に笑って、怒って、喜んで生活しているように装えていたのだけれども、私の中ではもう家族は死んでいて、私は惰性でいつも通りの生活を送っているだけだった。
私は家族が絞首台に向かって一段一段十三階段を上っていくのを眺めているような状態だったのだから。
だから家族の乗った飛行機が機内の乗客によりハイジャックされ、何があったかはよく解らないけれど爆発し、山間部に突っ込んだニュースが流れても、私の芯の虚脱状態は変わらなかった。寧ろ、ハイジャック機の乗客全ての死亡が確認されたニュースを聞いた私の目から涙が流れたことの方が驚きだった。
そして、どうせこうなってしまったからには、新しい兄に、もう少し優しくしていればよかったのだろうかと思った。