小説

『オクリモノ』村越呂美(『賢者の贈りもの』O.ヘンリー)

 だから、あやな、自分が西野のお母さんの殺せば、西野の役に立てるって思ったのかもね。バカだよね、ホント。そんなことしたってあの男と一緒になれるわけないのに。でもさ、いるのよ、そういう女って。男が喜ぶならなんでもしてやりたいって、尽くして、貢いで、それが生き甲斐になっちゃうの。
 あやなと仲が良かった人?
 仲が良いのかわかんないけど、時々、中学の同級生と会ってたよ。私も一度だけ、会ったことある。この近くのバーで働いているの。うん、ちょっと格好良かったよ、暗い感じがしたけど。西野より全然あの人の方が良かったな。

──容疑者の中学時代の同級生・沢田慎平(22)の証言
 周子と最後に会ったのは、まだお盆休みに入る前、8月の頭だったな、やたら暑くて、客が少なくて、暇な頃だった。事件の前、だと思いますよ。だってすぐに捕まったんでしょう、あいつ?
 自分から警察に行ったんだ。自首か、あいつらしいな。えっ? それって自首にならないんですか? へえ、事件の捜査が始まった後だと、出頭って言うんですか。出頭だと、自首より刑が軽くならないんだ。めんどくせえんだな、いろいろ。
 でも、周子には関係ないか。あいつ、別に刑を軽くしようなんて、思っていないだろうから。
 ああ、そういう奴なんですよ、昔から、なんにも執着しないっていうか、自分が生きてることそのものが後ろめたい、みたいな感じでね。あれ、きっと母親のせいだな。
 あいつの家って、裕福ではないけど、特別貧しい家ってわけではなかったんですよ、東京近郊の、どこにでもあるぱっとしないサラリーマン家庭。うちも似たようなもんですよ。
 だから、あいつんちが悲惨だったのは、金がなかったからじゃない。おふくろさん、あれがやばい女だったの。一種のヤク中。
 いや、麻薬じゃなくてね、ふつうに薬局に売ってる薬。アスピリンとか、バファリンみたいな痛み止めや、眠気覚ましのカフェインとか、咳止めシロップとか、ああいうのを、一箱全部、いっぺんに飲んじゃうんだって言ってた。
 そんなこと続けていたら、当然、頭おかしくなるでしょ。それでちょっと気に入らないことがあると、周子のことをぶったり、髪引っ張って引きずり回すんですよ。あいつ、いつもアザだらけでしたよ。
 俺と周子はつきあっていたのかって? さあ、どうかな。ガキだったからね、ただ、なんとなく一緒にいたって感じかな。なんとなく、放っておけないっていうのは、あったかもね。

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