小説

『オクリモノ』村越呂美(『賢者の贈りもの』O.ヘンリー)

 ですから、今回のことは清彦君にとっては、母を亡くした不幸を補ってあまりある、天からの贈りものみたいなものだったと思いますよ。犯人の彼女も、とんだ計算ちがいですよ。賢者ならぬ、愚か者の贈り物、というところですね。

──容疑者の同僚・持田美咲(26)の証言
 もう私びっくりしちゃって、だって、あやなが人を殺すなんて、ホント、ありえない。ああ、あやなって、本名じゃないもんね。へえ、周子っていうんだ。あの子に似合うかも、まじめでしっかりした子だった。優しかったし。
 私、キャバ嬢としては、年食ってるから、売り上げ落ちるとけっこうプレッシャーでさ、あやなはそういう時、自分のお客さんに頼んで私を指名してもらったりとか、助けてくれたんだ。いい子だったよ、ホント。
 でも、あの子ってすごく優しいし、頭もいいのに、何もかもあきらめちゃってるみたいな感じがして、ちょっと苦手だったな。一緒にいると、なんかこっちまで落ち込んで来ちゃうんだよね。
 この世界ってたまにいるんだ、そういう子。負のオーラ全開っていうの?
 記者さんとかさ、エリートだからわかんないかもしんないけど、しょうがないから生きてる、みたいな子っているのよ。今よりも少しでもましな場所に行けるって、想像さえできない、落ちていくだけの人生にどっぷりはまって、それに慣れちゃうんだよね。
 それで、一度そういう生活に慣れちゃうと、周りに最低な奴ばっかり集まってくるようになるの。あやなもそうだった。指名のお客は少なくなかったから、そこそこ稼いでいたはずだけど、黒服や新入りの女に金貸して踏み倒されたり、質の悪い客に騙されて金取られたりそんなことばっかやってたもん。
 でも、やっぱり最低だったのは、西野だよ。
 あいつがあやなにお母さん殺させたようなもんじゃん。あの子、ある意味被害者よ、マジで。
 ええ? 記者さん、知らないの?
 西野、ここに来るたびに言ってたんだよ。「おふくろ死んでくんねえかな」って。
 西野って、とんでもないバカ息子で、お母さん、西野に会社継がせるのやめるって言ってたらしいよ。そうそう、それ、本当だよ、本人が言ってたもん。西野、ここに来るといつも、お母さんとおじさんの文句ばっかり言って荒れてた。からみ酒、いやな飲み方する奴だったな、ホント。借金もいっぱいあったみたいだし。
 他の女の子たちは西野にうんざりしていたけど、あやなは「西野さん、がんばっているのにかわいそう」って言って、話聞いてあげてたよ。やっぱ、好きだったんじゃない?

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