小説

『オクリモノ』村越呂美(『賢者の贈りもの』O.ヘンリー)

「東京・世田谷区に住む会社社長・西野美耶子さん(60)が、自宅で刺殺され、遺体で見つかった。警視庁S署は、東京・六本木のホステス小柳周子(22)を殺害の容疑者として逮捕。凶器とされるナイフから検出された指紋が、小柳容疑者のものと特定されたのが、逮捕の決め手となった。取り調べで、小柳容疑者は「自分が殺害した」と認めているものの、動機については黙秘を続けている。小柳容疑者は、西野さんの長男の元交際相手であったという関係者からの証言があり、二人の間のトラブルが事件に関わっているのではないかと見て、捜査が進められている」(東都新聞)

──被害者の長男・西野清彦の証言
 週間誌の記者さんですか。困っているんですよね、興味本位で騒ぐ人が多くて。
 ええ、小柳周子さんとつきあっていたのは事実です。別に隠していたわけじゃありませんよ。ああいう仕事をしているわりには、周子はちゃんとした女でしたしね。
 母には彼女の話をしたことはありますが、実家に連れて行ったことはありません。僕自身、実家に帰るのは月に一度、あるかないかでしたからね。
 ええ、確かに母は僕と周子の交際に反対していました。まあ、あの世代の人ですから、息子がキャバ嬢とつきあっていて、いい顔をしないのは当然でしょう。ああ、新聞ではホステスって出ていましたね。実際はキャバクラですよ。サラリーマンの給料でクラブのホステスと遊べるわけがないじゃないですか。
 僕には兄弟はいませんから、家族は母と僕の二人きりです。父は8年前に亡くなりました。僕が25歳の時です。
 うちの家業は基礎工事の建設会社です。母は、父が死んで会社の経営を継いだんです。叔父が専務として、経営を助けていました。僕ですか? 僕は大学を出てから、会社勤めをしています。藤沢建設です。厳しいですが良い会社ですよ。
 どうして僕がうちの会社に入っていないか? 
 うちのような中小企業ではよくあることですよ。若いうちは、同じ業界の大企業で働きながら、勉強をさせてもらうんです。藤沢建設はうちのお得意先なんです。そこで勉強させてもらって人脈を作れるのは、ありがたいことですからね。
 遺言? そこまでおおげさなものではないですよ。
 確かに父は僕が35歳になるまでは、取引先の会社で修行させてもらうようにと、母と叔父に言っていたらしいですね。そうです。財産の相続もうちの会社に入ってから、ということになっています。
 僕が今の会社を早く辞めたいと言っていたって? 

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