「かしこまりました」新しいグラスを用意しながらマスターは言った。「これが猿カニ合戦ですか。まるで現代映画のようですね」
「ええ。そうね。ねえ、マスター。マスターが四人のうち誰かだったらどうする?父親を探す?探さない?」
「難しい質問ですね」テキーラをグラスに注ぎながらマスターは言った。「きっと私なら探しません」
「どうして?」
「知らなくてもいいことはあるかと」
「実の両親のことでも?」
「はい」
「私なら探す。母親の自殺のことも全部伝えると思う」
「あまりに辛い真実ですが…」
「子供には全てを知る権利がある」
「それは確かにそうです」
「そして大人が考えるよりも子供は賢い」
「はい」
マスターがマルガリータを作り終え、女の前に置くと、彼女はそれをじっと見つめた。だが、見ているのはどうやらマルガリータではなかった。
「話を続けましょう」
他の三人が消極的でもクリヤマだけは父親を積極的に探し続けた。少しでも手がかりになればとカニイの親戚宅にも行った。過去の事件の資料もできる限り調べた。しかし、それは徒労で終わった。父親の痕跡は一切見つからず、母親が自殺した確かな証拠だけが残っていた。結局何も得られないまま時間だけが過ぎていった。
そんな中でも娘は明るく健やかに成長していった。あれ以来実の両親のことをなぜか娘は一言も口にしなかった。義理の家族と分かっていても屈託なく過ごすそのけなげな様子は、父親探しをさらに消極的にさせた。
娘は十歳になった。母親に似て目鼻立ちが整っていて美しかった。勉強も運動も周りの誰よりもできた。クリヤマでさえも、このままでいいのではないか、と思ってしまうほど、義理の家族は幸せに包まれていた。
ある時、突然娘がいなくなった。四人は必至で彼女を探したが見つけることができなかった。