小説

『怪物さん』大前粟生(メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』)

――あら、もうこんな時間です。へえ、そうですかそうですか。実は、あなたに会いたいとおっしゃっている方がいるんです。
 ま、まさか!
――それでは、登場していただきましょう。どうぞ!
……
――怪物さんは感動のあまり声も出ません。
 あの……。
――はい。
 だれですか?
――フランケンシュタインさんです。
 え。
――フランケンシュタインさんです。
 いや。
――なにをいっているのですか。フランケンシュタインさんです。ご本人です。そうですよねえ。
フランケンシュタイン: フランケンシュタインです。
――ほら、ご本人もそうおっしゃってる。
 ちがいますよ。彼はもっと痩せていて、温厚で優しさに溢れた紳士かつ目はマッドに輝いています。こんな、いつもピザばかり食べているような太りきった人ではありません。
――それは、ただのあなたの好みですよね。
 そうですが。いや、映画とかもだいたいそんな感じで。みなさんのイメージだって。
――いいですか。この方はフランケンシュタインさんなのです。ほら、感動の再会をしてください。視聴者のみなさんはそれを望んでいます。泣けない代わりに、表情で視聴者を泣かせてくださいよ。今までそうしてきたみたいに。あなた得意でしょ。ほら、ほら。
 聞いていた話とちがいます。わたしが指定したフランケンシュタインさんが現れるはずだったじゃないですか。
――この業界では、予期せぬ事態はつきものです。それをいうなら、こちらこそ聞いていた話とちがいます。あなた、オーディションのときとずいぶんちがっているじゃありませんか。これが生放送でなければ、あなたがスタジオ入りしたときに断っていました。あなたではなく別の人に出演してもらっていましたよ。

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