小説

『怪物さん』大前粟生(メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』)

  わたしは、ずっと自分の容姿に自信がありませんでした。鏡を見ても、ひどい顔をしてるって自分でもわかります。でも、大学に入って、「比較視覚論」の授業で、怪物さんのお姿を見ました。わたしは救われました。ああ、世の中にはこんなに醜い人がいるんだ。わたしはまだ、ぜんぜんましじゃないか、と思いました。それから怪物さんのことを調べてみると、怪物さんは愛されたことがありませんでした。ご飯を食べるよろこびも、眠るよろこびも怪物さんは知りません。もちろん童貞ですよね。なんてかわいそうなんでしょう。哀れな怪物さんと比べて、わたしはなんて恵まれているんだろう。下を見ると怪物さんがいる。どこまで落ちても怪物さんよりわたしは上にいる。あー。この人と比べたらわたしはぜんぜん大丈夫。ファイト、わたし。ファーイト。ほんとうに、ありがとうございます。怪物さん。醜くて。

――ああ! ちょっと、怪物さん! 怒らないで、落ち着いて! 一端CMです! ぎゃ、ぎゃー! ずぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ。

――休日、楽しんでますか? わたしは休日にはよく編み物をするんです。わたしのブログ「トキちゃんトキちゃんトキちゃん 3回いいました」とインスタグラムとツイッターで、みなさんはご存じですよね。セーターなんか作っちゃたりして。せっかく作ったんだから着てみよう。でもせっかくだからだれかに着せてみようってことで、息子に送ってやるんです。ええ、大学生でひとり暮らしの息子に。似合うだろうなあ、気にいってくれるだろうなあ、なんて思ってたら、息子から写真が届きました。母さん、ありがとう、よく似合うよ、って息子は、バットマンの大きいお人形に着せてるんです。これはあんたあれか、バットマンとかけて暗にバッドといっているのかい、なんつって。みなさんこんにちは。北条院時子です。「人生は一期一会」です。ゲストは怪物さんです。先ほどはパワフルなお姿を見せてくださいました。
 すいません。
――ところで怪物さん。わたし、ずっと最近まで怪物さんのこと、フランケンシュタインだと思ってたんですよ。
 ああ。あるあるですね。フランケンシュタインはわたしを作った大学生の名前で、わたしには名前がないんです。だから、怪物と呼ばれているんです。

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