小説

『硝子細工』酒井華蓮(『堕落論』坂口安吾)

 掃除もしたし良く分からない理屈も並べられた。気の知れた仲だし、面と向かった暴言の一つや二つは許してほしい。
「この性悪女が」
 今度こそ彼女は声を上げて大笑いした。滅多に声を上げて笑わないこの子は笑いのツボが良く分からない。なんだか私ばかりが彼女に適わない気がしてきて、眠気覚ましにジャスミン茶をかけてやろうかと思ったが、その必要は無かった。
 ようやく飽きたのかまだ吸えそうな煙草を灰皿に押し付けて消して身体を起こした彼女が、いつものように微笑んで発した言葉が私の予想通りだったからだ。
「大丈夫、堕落する前に壊れるよ」

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