小説

『硝子細工』酒井華蓮(『堕落論』坂口安吾)

 でも彼女は自分から告白はしない。されて断ることも滅多にない。振ることはあるけど、振られることが圧倒的に多い。それを彼女は
「結局私は見た目だけの女なのよ」
 いつも、そう言う。
「それならさ」
 部屋がそこそこ綺麗に片付いたので冷蔵庫からジャスミン茶をいただく。
 彼女はこれが好きで、随分な量が冷やしてある。
 コップに注ぎながら今まで聞いてみたかった質問をぶつけてみる。
「何でいつも彼氏いるの?」
 正確には「どうして振らないのか」だ。
 堕落したのでなく元来の彼女はこうしていたい。でも、彼氏がいることでそれは制限される。また、別れる未来も見えているし、見ている限り美麗は相手が特別好きという訳ではない。彼氏という存在が欲しいように思える。
 言葉が足らなかったように思えたが彼女は意を汲み取ってくれたようで、外では見せない裏のありそうな意味ありげな笑みをした。
「私、綺麗なものが壊れるのが好きなの」
「……はあ」
 またおかしな領域に足を突っ込んでしまったのかもしれない。
 一度変なスイッチが入った美麗は収束まで時間がかかる。その間の会話は相手をするこちら側も異様に頭を使わせられるから、疲れているときはやめていただきたい。
「愛って綺麗なものでしょ、形式だけでも恋人同士って関係は綺麗だから。みんな私のこと綺麗って言うから今の内に死ぬのもいいなって思う」
 綺麗な物。前に、ガラスが割れる音が好きなのと言っていたのを思い出した。
 彼女にとっては人も物も等しく硝子細工のようなものなのだろうか。だとしたら、私もその彼氏も同等、そうは思いたくないが。
「物が壊れるのはただそれだけだけど、人間が関わるともっと綺麗。壊れ際にすごく抵抗するけどね、大体壊れ始めたら止まらないから結局壊れちゃうの。ああいう時の人間ほど綺麗なものないよ、きっと」
 どうも、彼女は自分の容姿を使って遊んでいるようだった。翻弄された男性には申し訳ないが、彼らもほとんど彼女の容姿に寄って来た人ばかりだからおあいこかとも思う。

1 2 3 4 5 6 7