振り返れば化粧品に溢れた鏡台がある。彼女の吐いた煙だけが鏡に映った。
「随分女々しい彼氏さんだね」
「ね」
落ち込んでいまいかと心配したのが馬鹿だった。何でもない世間話のように言って灰皿に灰を落としている。
というかあんたも少しは手伝え。
そう思いつつ言わずに片付けてしまうのがもう癖になっている。別に奢ってくれなくても良いのだが彼女はああ言って本当に奢ってくれる。
「でも馬鹿だよね。ああ言ったってことは自分の所から私がいなくなるのが少なからず嫌だったってことでしょ?だったら心中しようとか、言ってみればいいのにね」
「はあ?」
またとんでもないことを言い出す。
しかし本人はどうやらふざけているようではなく、真顔で新しい煙草を取り出している。
あのライターは確か件の彼氏とペアの物だ。本当にそういうことは気にしないな。
彼女曰く、物に罪は無いらしい。
「今死ねば多分一番綺麗な状態で終われる。今じゃないや、あの時心中してれば。だって今、現にこうして素に戻っちゃって人様に見せられないような状態になった訳だし。これからだって老けていくだけだから綺麗じゃないしさ、それも良かったと思うんだけど」
「良くない。それとすぐ死ぬ死ぬ言うのやめなさい」
そういう退廃的なことを言い出すようになったのは中学の頃からで、その時は世にいう厨二病かと思っていたがそうでもないらしい。
本棚には太宰が多く並び、大学での専攻も近代日本文学。どうやら頭の良い退廃的な人になってしまったようで、厨二病よりよほどタチが悪い。
「何で?この前読んだ小説にもあったの、心中。環境的にどうしたって結ばれないから海に飛び込むの。私としては憧れるけど。綺麗じゃない?」
「全然綺麗じゃない。海なんかで死んだら死体ぶよぶよだよ?それに生きていたらまだ望みはあるのに」
彼女が顔をしかめる。そういうことじゃない、と言いたいのは分かっているが咄嗟にそれしか反論の言葉が出てこなかった。