しばらくの時間が経って、ようやくアコは答えた。
「だって、離れている人は本当に待っていてくれるのよ。そりゃあ、贅沢な暮らしだって悪くないけど……、してみたいけど。でも、それだけじゃきっと私達には足りないの。貧乏性なのかもしれないけど、私は自分を待っていてくれる人の所に戻りたい。それは縛られてるのとは違うと思う」
「じゃあ、どこにも行かずにずっとそこにいればいいじゃない?」
女性が駄々をこねるように聞いた。今ではまるでアコの方が年上の気分になっていた。
「離れたくて離れる訳じゃないの。色々事情があって。やむにやまれず別れる時だってあるの。決してそこや、その人が嫌いになった訳じゃないの」
アコはまるで子供に言い聞かせるかのように、一語一句ゆっくりと話した。だが女性は全く理解できないようだった。今度はアコが聞いてみる。
「あなたはどうなの?その人達を招いて、どうしたかったの?」
「ただ、一緒にいたかった」
女性はポツリと呟いた。
「でも、いきなり連れて行って贅沢させて、最初は喜んでも長くは続かないんじゃないかしら。時間をかけて、お互いをよく知ってからじゃないと、それこそ縛りつける事になっちゃうんじゃないかしら?……」
こう言いながら、アコは、いつの間にか自分がこの女性の物語を事実であるという前提で話をしている事に驚いていた。本当に何て私はバカなんだろう。物陰からカメラを担いだ人や、看板を持った人が出てきて、自分を笑う光景が目に浮かぶ。でも……。
「あなたには待っている人いないの?」
アコは聞いてみた。
「私には離れていく人しかいない。今までも、きっとこれからも」
そして女性が唐突にアコに聞いた。
「あなた、私と来てくれる?」
アコの中に、恐怖と、深い憐みの感情が湧きあがってきた。でも、それはできない。私の環境。私の生活。私の関わっている人々。憐憫の情を押し殺し、彼女の顔を見て、はっきりと言う。
「ごめんなさい。私は行けない。私には私を待ってくれている人がいる」
「本当に?」