「お姉さん、お話作るの上手ですね」
「どういう事?」
女性が尋ねる。
「『浦島太郎』でしょ?私、最後まで真面目に聞いちゃった」
ホント、何て私はお人よしなんだろう。見事なまでにコロッと騙された。登場人物に感情移入までしちゃって。でも、不思議と悪い気分はしなかった。十分楽しめたんだしお姉さんに感謝しなくちゃいけない。
「何か、いいお土産話ができました。日本に帰ったら友達に話してみますね」
アコが言うと、女性はまた寂しそうに微笑んだ。
「浦島太郎、その人もそうだった。ここで見つかった男性も。その他にも、知られていないけど、たくさんの男の人。みんな、帰りたいと言って、帰って、絶望して死んでいった。あれほど止めたのに。みんな帰ってしまう」
女性があまりに寂しそうに話すので、アコはビックリした。まだお伽噺は続いているの?
「お姉さん、もういいですよ。分かってますから」
アコは言ったが、女性の目に大粒の涙がたまっているのを見て言葉を失う。
「なぜ、みんなは故郷に戻りたがるの?私の所にいれば何一つ不自由はさせないのに。なぜ、自分の幸せだけを考えないの?私はいつも止めるの。もうあなたが帰る所はないって。でもそう言うと、みんな怒るの。俺には帰る場所がある、待ってる人がいるって。」
この人、何を言っているのだろう?アコは不安と恐怖が足元に絡みつき、じりじりと上ってくるのを感じた。まさか、でも、まさか?
「今日は、彼がここに戻ってきた日なの。だから私は毎年ここに来る。来たって何がある訳じゃないけど、彼が望んでいたものが何かを知りたいから」
そう言って彼女は言葉を切り、アコに顔を向けた。
「あなたは分かる?彼らがなぜ帰りたがったか?なぜ、何も縛られない生活を捨てて、こっちに戻ったのか?」
女性は自分の疑問に疑問を持たず、愚直とも言える目を向けアコに尋ねた。その視線に気圧されながら、アコは自分の祖父母や、友人や、好きな男の子の事を考えていた。自分の大切な人達は私を縛ってるのかしら?私は縛られてるのかしら?