「おいそれは、俺が嘘を吐いてるって言いたいのかぃ?」
「うそ…」
「俺が痛くもねぇのに嘘をついて他人から金を騙しとってるって言いたいのかって聞いてるんだ」
男の声が周りの空気を震わす。
ウソ。
この村の人間が嘘など吐くだろうか。
そんなはずは無い。
いや、でもこいつは明らかにケガなんかしてないじゃないか…。
短い間に頭の中で様々な考え浮かんでは消えを繰り返す。
ふと男に目線を向けると嫌な笑みを貼り付けた顔で混乱した様子のこちらの事を観察している。
「おいおい、冗談だろ」
「ジョーダン?」
男が次の言葉を発しようとした時、海の方から男達の快活な喋り声が聞こえて来たため、男はしょうがないとでも言いたげに鼻を鳴らし、ひょいと立ち上がるとすたすたと歩き出した。
呆気に取られたまま動けない僕に向き直り、
「お前だけじゃねんだよ。気いつけろ」
と、勝ち誇った様に言い放った。
海の方からやって来た恰幅の良い郵便局長は男と僕に気付くと大げさに手を振った。
「よう、サイさん。今日は体の具合は良いのかい」
「うぅー、ちょっとまだ悪くてよ。すまねえな」
「いんだいんだ。働けねえ内は村の手当が出るからよ、村長にも言っとくぜ」
「こりゃ、ありがてぇ」
郵便局長に肩を叩かれた男は頭を下げるフリをしながらこちらに目線を送ってくる。
先程の、お前はどっち側なんだ。という声が蘇り、一緒にするなと腹立たしげに睨みつけた。
郵便局長と一緒に海の方からあがって来た宿屋の大男は手にバケツと釣り竿を下げた格好だ。
バケツを覗くと銀色の鱗をキラキラと反射させた魚が狭そうに体をうねらせている。
「どうしました。そんな怖い顔で見たら魚達が困りますよ」