小説

『狼はいない』光浦こう(『狼少年』)

「恋人じゃないよ!」
「でも好きなんだろ」
 多分年下のぽっちゃり相手にたかちゃんは耳まで真っ赤にし今度は口をパクパクとさせ何も言い返せない。
 金魚みたいだ
「ほらーやっぱ好きなんだ」
 一言「違う」と言って隠すことの出来ないたかちゃんの幼さと純真さがとても綺麗で愛おしく、懐かしかった。
「勝手な事言うなよ」
 たかちゃんは真っ赤な顔のまんまそれきり口をつぐむ。
 無抵抗のたかちゃんに対し、周りの子供たちが急に邪鬼の様に見えてきた。
 話を反らすために目の前の像を見やる。
「ねえ、これって狼少年だよね?何でこんな像があるの」
 たかちゃんを含め全員が一斉にこちらを見る。
「知らないの、あの話って昔ここで起こった事なんだよ」
 ぽっちゃりが面食らった様に叫んだが、今度は自分が面食らう方であった。
「だってあれはグリム童話とかイソップ寓話とかもっと、ヨーロッパ寄りの話だろ」
「違うよ、元はここであった話なの向こうにほら、鐘が見えるでしょ。あそこが少年の家。まだ残してるの」
 少女の指差す方向には確かに古びた小さな鐘が見える。しかし日本のこんな片田舎の出来事が世界中で知られる有名な童話の出元だとはそんな事あるのだろうか…
「ウッソだぁー、お前らさっきの冗談の仕返しか?」
 後に知るが僕はこの時この村で言ってはいけないワードを放ってしまった、無邪気であったはずの子供達の僕に向ける目がみるみると異端者を見る物へと変わる。
「嘘なんか言わないよ!」

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