「やあ、どうです。退屈してませんか」
人懐っこい声に振り向くと周りの大人達よりも頭一つ分背の高い大男が立っていた。
「いえ、おかげさまで」
食べかけのミルクフランスを少し掲げ男に応える。
昨夜遅くに村へ辿り着いた僕は、どこか泊まれる宿は無いか交番に尋ねた所ひどく驚かれてしまった。というのも、元々この村にはこれと言って観光地などがないために親戚を除き余所者はやって来ない。つまり部外者を泊める施設が無いと言う事らしい。そこで呼ばれたのが昔何かの宿舎であった建物跡地に住んでいるこの大男であった。
初対面の人間に対し何の警戒心も持たず、ぜひ泊まれと自分の家に招き入れるなんて不用心が過ぎるのでは無いかと心配になったが、例えいきなり後ろから襲いかかろうとも自分×10人程の力が無くては勝てそうもないと心配するのをやめた。
「観光も娯楽施設も何も無いつまらない所ですが、どうぞ、ゆっくりしていってください」
自分の住む村をつまらないと言っているが、その口調や表情からはこの村が好きだという気持ちが伝わってくる。
先程のパン屋でもそうであったがとても珍しいはずの余所者に対して、村の人間達は皆友好的であった。部外者が自分のテリトリーに入って来ても気にならないという感じだ。
田舎というある意味社会から独立した閉鎖的な空間で過ごすと、他人同士の距離が近くなり過度な信頼関係が出来上がるのかもしれない。
広場にパタパタと軽い音を響かせ5、6人の小学生が歩いてくる。
彼らは見慣れない男を発見するや否やこそこそ話をする様にきゅっと固まり、少ししてから意見が合意したのか互いに頷き合い一番背の高い女の子を筆頭にこちらへとやって来た。 何か悪口でも言って去って行くのだろうと思っていたのに予想外の行動に少し動揺して気づかないフリをする。
「ねえ、お兄さんどこの人?」
話しかけられては無視も出来まいと初めて気づいた風にさりげなく聞き返す。
「出身?」