時計を見ると十七時半を過ぎていた。日が短いこの季節で、六才の男の子が外で遊ぶには心配な時間だ。美緒はそう思い、立ち上がってPコートを着直し、玄関へと向かう。
そしてドアノブに手をかけた時、母親は乾いた声で、美緒の背中に向かってこう言った。
「このまま帰って来なければいいのに」
早く死ね。早く死ね。早く死ね。
美緒は心の中でお経のように唱えて、家を出た。
「あ、お姉ちゃん」
隼人は予想をしていた通り公園にいて、ベンチに座っていた。
――美緒は思わず眉をしかめた。隼人のとなりに、見知らぬ女がいたからだ。年は四十代半ばだろうか。黒いコートに、赤のロングスカート。前髪は目にかかっていて、表情がよく分からないといったところだった。不信に思いながら、美緒は女に小さく頭を下げ、隼人に「帰るよ」と言った。
隼人は女からもらったと思しきチョコレート菓子を食べていた。後で叱らなければ。知らない人から物を受け取ってはならないと。美緒は静かに息を吐き、ベンチから立とうとしない隼人の手を持って、もう一度「帰るよ」と言った。
「ねえ、お姉さんもお菓子食べない?」
女は帰るのを引き留めるように、美緒に問いかけた。
「いえ、結構です」
「遠慮をしないで。そんなに細い脚をして、ちゃんと食べているの?」
制服のスカートから伸びた、美緒の棒のような脚を見て女は言った。どこか哀れみのこもった声色だった。それでも見られていることは良い気分ではなく、美緒は早くこの場から去りたかった。
「すみません、この子がお世話になりました。失礼しま」