言い切る前に、心の中の自分が問いかけた。そのことに、美緒は驚いてしまい息が詰まりそうになった。もう苦しさから解放されたというのに、また呼吸が苦しくなり、一度、大きく深呼吸をした。
「お姉ちゃん?大丈夫?」
隼人は心配そうに、美緒の顔を覗き込む。
「……うん、ごめんね。早くこの部屋から出よう」
そう言って美緒は立ち上がる。隼人も頷き、後に続いて立ち上がった。そしてふたりでドアに向かって歩いていると、美緒は何かを踏んづけてしまった。それはおそらく女が持っていたテレビのリモコンだった。倒れた拍子に、ポケットから飛び出してしまったのだろう。美緒はリモコンを拾い上げ、少し考えた後、それをテレビに向けて電源ボタンを押した。
「あ!!」
映像が流れた瞬間、隼人は甲高い声で叫んだ。
美緒と隼人は驚いて、瞬きも忘れてブラウン管を見つめた。なぜなら、放送しているニュース番組の中で、母親が画面いっぱいに映っていたからだ。
〝姉弟行方不明捜査〟というテロップが画面の右上に痛々しく表示され、母親は数名の記者にマイクを向けられて、インタビューを受けていた。母親は、普段外に出る時は着飾っているが、この時は髪も乱れていて、目も腫れ、頬には涙の跡があるようにも見えた。
『私、子供に最後、言っちゃったんです……。もう帰って来なければいいのにって。どうして、あんなことを言っちゃったんだろう。本当は、本当は、そんなこと思ってない。無事でいてほしい。元気に帰ってきて欲しい』
そう言って、母親はハンカチで目を押さえた。
そうなの? いつもは酷いことばかり言っていたけれど、本当は私のこと、そう思ってくれていたの? 美緒は胸が高鳴るのを感じていた。
しかし、その気持ちは次の一言で崩れた。
『隼人……。隼人……』