軽い衝撃波を感じたのは夜中の二時だった。地震か、外で事故でも起きたのか。深く寝入っていたヒロヨシはわけがわからなかった。枕元のデジタル時計が光っていた。ようやく異変に気付く。掛布団が無い。辺りを見回すと、足元に昼間図書館で出会った少女が正座していた。
「わっ」
ただの驚きから、こそばゆいようなエロのまじった仮説まで、色々な思考が脳を駆け巡った。少女は相変わらず無表情で、エロの可能性は低そうだ、とヒロヨシは不承不承認めた。とすれば、いったい何?
「あなたは、私の上着を持っていますね」
「あ」
わざとではないのだ。いや、わざとだったのか。ポケットに入れたまま仕事をし、時間になったので慌てて片付けて学校に行った。図書館を出るとき、一瞬上着のことが頭をかすめた気もする。とにかく今は、鞄の中に、丸めたエプロンごと入っている。
「あの、どうやって入ったの?」
1Kの古いアパートだから、チェーンもドアを蹴り倒せば引きちぎれそうなものである。が、こんな華奢な子が警官みたいに突入したとは思えない。少女が戸口を振り返ると、サーチライトで照らしたように部屋のドアが明るく見えた。鍵だのチェーンだのがあったあたりが、きれいになくなって黒い丸のように見えていた。
「うそっ。賃貸なのに!」
少女がもう一度ドアをふりかえると、逆再生のように鍵とチェーンが復活した。すごい。歩く3Dプリンターだ。
「・・・君、宇宙人か何か?」
「私は、判定者」