「じゃあさ、二人で思いついた順に言ってみよう。私らだって国語教育を受けてきたわけだし」
やり取りを表情筋一つ動かさずに聞いていた少女に向かって、相田さんが言った。
「えー、文庫売上日本一。夏目漱石の『こころ』」
ほれ、あんた、と促されてヒロヨシはあせった。アニメおたくではないけれど、純粋に美しいこの少女に、馬鹿とは思われたくない。
「だ、太宰治の『人間失格』、はい、相田さん」
「外国人になぜか人気。三島由紀夫の『金閣寺』」
なんだか掛け合い漫才のようなテンポで、必死で挙げていった。森鴎外「舞姫」田山花袋「蒲団」芥川龍之介「蜘蛛の糸」紫式部「源氏物語」(田辺聖子版が読みやすいよ、と相田さん)村上春樹「ノルウェイの森」・・・。
「後一冊ずつだ。えーっと、えーっと、トマス・ハリス『羊たちの沈黙』」
「うそでしょ。代表的でもないし、だいたい日本の小説じゃないじゃないですか」
「あれはさ、サイコミステリーの最高傑作だし」
もめていると、少女が割って入った。
「・・・日本で人気がありますか」
「もちろん。映画もヒットしたし」
「じゃあ、それもいいです」
相田さんはにやにやした。最後に好きなカードを切ってきたわけだ。
「相田さんがそうくるなら、伊坂幸太郎の『重力ピエロ』でどうだ」
「・・・別にそれほどインパクト無いし」
十冊の選択が終わった。二人で一仕事終えたような余韻に浸ったが、気が付くと少女はさっさと書棚に向かっていた。