「教科書に載ってるから『こころ』が有名ですけど、初めて読むなら『坊ちゃん』とかの方が素直に面白い気がしますね」
「その方が、家庭的、ですか」
「え、家庭的?」
少女は両腕を伸ばし、白く細い指の先でヒロヨシのこめかみを挟んだ。脳の奥の方がシュッと熱くなって、ヒロヨシは少女が何者か、思い出した。
「う、宇宙人」
「広義には、あなたも宇宙人です」
「・・・再評価に来たの?」
人類を滅ぼすために戻って来たとか、わざわざ言いに来るだろうか。
「評価の結果、しばらく帰れなくなりました」
「・・・?」
「人類を駆除することにはためらいますが、環境アセスメントが悪すぎるのです。それで、数値がよくなるまで、時代を逆行させることになりました」
「時代を逆行?」
「江戸時代までは、日本では全て自然素材、人力および水力と若干の火力のみで生活と産業を維持していました。ただ、もう少し昔に戻さないと、環境の回復は追い付きません。西洋との兼ね合いもあります」
「何時代まで戻すの?」
「昔むかし、まで」
少女は真面目な顔で言ったが、どうも相田さんのようなふざけが入っているような気がしてならない。
「それで、どうしてまたここに来たの?」