そこでかぐや姫はある事を思い立った。
「おじいさん、お願いがあります。東の山の中腹に、深い緑色の葉を持つ、丈2尺ほどの植物があります。それを取ってきてくださいませんか?」
そうしてかぐや姫は帝にもう一度手紙を送った。
『私は15年前、竹の中より生まれた人で在らざる者なのです。私は月の民なのです。昔月で犯した罪を償うため、この地にやって来ました。しかし、その罪ももう消えようとしています。8月の15日、月よりの使者が私を迎えに来ます。月に帰る者と一緒になることはできないのです。』
これを知った帝は2千人もの兵を連れ、翁の屋敷にやって来た。
「たとえ何人であれ、必ず姫を守ってみせよう」
あまりの大事に、ただ唖然と立ち尽くす嫗に、かぐや姫はこうつぶやいた。
「おばあさん、月が高く上がった頃、おじいさんが取って来てくれたあの草を燃やしてください」
そう言うと、かぐや姫は屋敷の奥へ引き込んだ。
その夜はあいにくの曇り空だったが、月が空高く上がる頃、雲の切れ目からその姿を現し、屋敷を青白い光で照らした。
兵士たちは今か今かと月を見上げている。
そこへ、甘くとも苦いとも言えぬ匂いがあたりを包み込んだ。
それを嗅いだ兵士たちは月の光が強くなったように感じ、酒に酔った感覚に囚われた。
やがて一人、また一人とその場に崩れて落ちていった。
それは翁や嫗も同じだった。
薄れゆく意識の中、翁はかぐや姫が側にいるような気がした。
「おじいさん、おばあさん。今日までありがとうございました。私がここに居てはおじいさん達のご迷惑になります。親孝行もせず行くことをお許しください」
翁は、薄れゆく意識の中かぐや姫は本当に月の民だったのだろうかと思った。
「おじいさん、また竹を取りに来てください。必ず…」
その言葉を最後に翁の意識は深い闇の中に沈んでいった。
兵士たちが目を覚ます頃、かぐや姫の姿は屋敷のどこにもなかった。
帝はひどく落胆し、都へ帰って行った。