小説

『罪深い娘と罪のない息子』山北貴子(『竹取物語』)

それから嫗はかわいらしい着物を仕立て、赤子を女の子として育てた。
翁も一層仕事に励んだ。
子供がいると思うと、仕事にも精が出た。
少しずつではあるが裕福になっていった。
子供はすくすくと育ち、12歳になった。
あと3年。15歳になったら男の子の名を与え、男としてそだてようと思っていた。

そんなある日、男が翁の家のそばを通った。
男は庭で遊ぶ子供を見て驚いた。
「なんて美しい女の子だ…」
その子は白い肌、凛とした目、小さく赤い唇、何より長くまっすぐ伸びた緑の髪は今まで見たことがないほど美しかった。
男は縁の下でお茶を飲む翁に声をかけた。
「こちらの姫はどなたですか?」
翁は答えた。
「われらの娘ですよ」
男は垣根から身を乗り出し言った。
「わたくし御室戸斎部の秋田と申します。もしこちらの姫にまだ御名前がないのでしたら、わたくしに名付けさせては頂けませんか?」
翁は困った。
秋田が名付けえるとすれば当然女性の名だ。
そんな名を付ければこの子は一生女として生きていかねばならない。
しかしこの子はまだ12歳。今ここで本当の性を告げ、男として生かすわけにもいかない。
また斎部氏と言えば、朝廷の祭祀を司る氏族、このように位の高い人の申し出を断る術が翁にはなかった。
 

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