小説

『もみの木』小高さりな(『もみの木』)

「ありがとう」
 きょとんとした顔の青年を残し、剛は本屋を後にした。
 剛は、本屋を出ると、足を止め、本屋の隣にある店に入った。しばらくすると、剛は手ぶらで店から出てきた。
 手ぶらなのには、訳があった。
 店員に「足のサイズはおいくつですか?」と聞かれ、答えられなかったのだ。もちろん、自分の足のサイズではない。遥のだ。
 ダンスシューズ、をクリスマスプレゼントにしよう、と思い立ったのはいいものの、肝心なことを忘れていた。
-帰ったら、足のサイズを確認しなきゃな。
 剛は携帯電話を取り出した。五コール目に「どうしたの?」という悠子の声が聞こえた。
「いや、今日は早く帰るよ。七時前には家に着く」
「別に連絡しなくてもいいのに」
 そう言って、悠子はクスリと笑った。
 剛は携帯電話を切って、家路を急いだ。クリスマスは、もうすぐだ。その後には、正月もやってくる。
 

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