小説

『もみの木』小高さりな(『もみの木』)

 大通りには負けるが、クリスマスに向けて、裏通りにもぽつりぽつりと各店舗にイルミネーションが施されていた。
 剛は、迫りくるクリスマスから逃げたい気分だった。
 遥へのプレゼントは、まだ買っていないし、プレゼントをどうするか、悠子と相談すらできない状況だ。
 剛は白い息を吐きながら、本屋に入った。
 入ってすぐ本屋の一番目立つ入口には、クリスマス特集というコーナーが設けられていた。クリスマス関連の絵本や児童書が集められ、棚もクリスマスカラーに飾りつけられている。
 その中の一冊が剛の目に留まった。
 目の覚めるような赤い表紙に、金の文字で、『もみの木』と書かれていた。文字の下には、
 金色の星飾りをつけ、ろうそくや飾りを枝いっぱいに付けた立派なモミの木が描かれていた。
 剛は、その本を手に取った。剛に気が付いた青年が声をかけた。
「プレゼントですか?」
「こんな悲しい話、プレゼントに?」
 剛の言葉に、青年は問い返した。
「悲しいですか、この話は? …形がわるい、色がわるいって、ツリーになれなかったもみの木もきっといます。その中で、クリスマスツリーとして素晴らしい一日を体験できたのだから、もみの木は本望だったとぼくは思いますよ」
 普段口数の少ない青年の言葉には熱がこもっていた。剛はその様子に気圧され、「そうかい」と小さく言った。
 

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