水曜日でもないのに、姿を見せた剛を見た青年は、少し驚いたように目を瞬かせた。
「今日はどうされましたか? もう読み終わったんですか?」
「ああ、いや、まだなんだけどね、ほらこの土日に読み終わるかもしれないから」
言い訳などしなくてもいいのに、剛は取り繕うように言った。
「またお薦め、お願いしてもいいかな?」
青年は「ええ」と言って、本棚に向き直った。
剛は家に入る前に時計を確認した。八時過ぎ、ちょうどいい頃合いだろうと剛は家に上がった。
リビングのドアを開けたところで、剛の耳にリズミカルな明るい音楽が飛び込んできた。次にテレビに向かって、手足を動かす遥が目に入った。
お世辞にも、その動きはうまいとは言えない。テレビ画面には、女の子たちがスポットライトを浴びながら、歌い、踊る姿が映し出されていた。
遥が剛の気配に気が付き、動きを止めたが、テレビの中の女の子たちはどんどんアップテンポになるダンスを軽々とこなしていた。
遥の額には、うっすらと汗が浮かんでいた。遥は一気に表情を曇らせ、テレビの電源を乱暴に切った。
途端に静かになり、沈黙が重苦しく剛にのしかかった。遥が早口で言った。
「今日、遅いんじゃないの?」
「思ったより早く仕事が片付いたんだ」
「ふーん」