小説

『BUNBUKU-CHAGAMA』星見柳太(『ぶんぶく茶釜』)

 それから、話はトントン拍子に進んでいった。
 あの時、幸平に話しかけてきたのは海外のとあるサーカスのプロデューサーであった。日本での仕事の後、次回の公演の構想に頭を悩ませながら入った店でたまたまあの騒ぎに会い、福右衛門の化け術をぜひとも公演に使いたいと申し出てきたのだった。
 唐突な話に驚きながらも引き受けた福右衛門はすぐさま渡米し、アメリカでのツアーは大成功、仕込みなしの圧倒的なパフォーマンスは多くの観客を楽しませた。特に綱渡り途中に失敗したと見せかけて観客の上空を飛び回る『Flying U.F.O』は非常に高い評価を受け、福右衛門を一気にスターダムへと押し上げた。その後もワールドツアー、ハリウッドデビューを始め各方面で活躍、水不足に苦しむ地域で無限に湧く茶釜の水を振る舞うなど慈善事業にも積極的に参加、『今世界でもっとも偉大なエンターテイナー百人』に選出され、世界のCHAGAMA、時代が求めたスーパー狸として一世を風靡、狸の地位向上にも貢献した。
 幸平はというと、そんな福右衛門のマネージャー兼通訳として、その活動をサポートしていた。「恩返しするどころか、ぼくばかりが目立ってしまってごめんなさい」と福右衛門は言うが、幸平はとんでもない、という思いだった。福衛門のおかげで世界中を飛び回り、多くの国の人びとと関わるという夢がかなった。これ以上の恩返しはないと、幸平の方こそ、感謝の気持でいっぱいだった。

 こうして一人と一匹は、それぞれの夢を叶え、お互いを支え続けていった。馬鹿みたいな話だが、化かされたと思って信じてほしい。世の中には、こんな話もあることを。
 めでたし、めでたし。

 

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