小説

『ぼくと、4つのせかい』田中和次朗(ネイティブアメリカン民話『ホピ族の予言』)

どのくらい寝ていたのだろう。
どれくらいの道を進んできたのだろう。
「これからどこに行くか、不安だな」
となりの牛乳瓶が、話しかけてきた。ぼくがいるケースには十二本の牛乳瓶が三列になって並んでいる。
「お前がいるその角には、ジンクスがあってな」
ぼくは黙って、その話を聞いた。
「お前の位置にいれば、いい家に運ばれるんだと。腐ることなく、美味しく召し上がってもらえるんだ。どうだ、この位置と交換しないか?」
ぼくはどうしたらいいかわからなかった。そっちの位置にはどんなジンクスがあるのか、わからなかったからだ。
「どうだ?代わりにいいこと教えてやるからさ」
カラカラと笑うその瓶がこわくてこわくてしかたなかった。するとほかの瓶が声を上げた。
「ちょっと、卑怯だぞ」
ジンクスを聞いていたほかの瓶たちもぼくの場所を取ろうと、争い始めてしまった。
どうしよう。牛乳瓶たちの声がカラカラと大きくなっていく。
目をつぶったぼくが、さらに強く目をつぶると、衝撃が走った。
目の前には、割れた牛乳瓶たちの姿。ぼくたちを運んでいる車が、急ブレーキをかけたのだ。
「せっかく、美味しく召し上がっていただこうと思ったのに…」
となりの牛乳瓶は、そうつぶやいて息絶えてしまった。
「それ」を忘れたものは、なにかわるいことが起きる。ぼくは、そのことに気づいた。でも、わるいことが起きないようにするためにはどうすればいいかわからなかった。なぜなら「それ」が何だかわからなかったからだ。
 

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