小説

『ぼくと、4つのせかい』田中和次朗(ネイティブアメリカン民話『ホピ族の予言』)

ぼくの身長は、この牧場の柵を超えるほどの高さまで伸びていた。
幸せは続いている。これは、確かに幸せだ。
それなのに、毎日毎日繰り返すこの時間より、柵の向こう側が気になって仕方がなかった。身長が伸びて、柵の向こう側が見えてしまうことが、その気持ちをさらに高めていたのだ。
そんなぼくに声をかけたのは、四つ葉のクローバーだった。
「知ってる?草介。わたしの姉は摘まれて、ここから先に行ったのよ。今頃なにをしているんでしょうね」
ぼくは、その四つ葉のクローバーのおねえちゃんが、うらやましくてしょうがなかった。ぼくはいつの間にかここで生きることへのありがたみを忘れてしまった。そう、それを忘れた瞬間だった…。

ぼくは刈り取られてしまった。
干し草になったぼくは、牛に食べられ、太陽の当たらない、暗いせかいへ飲み込まれてしまったのだ。
牧場でのくらしは好きだった。ずっとずっと好きだった。好きだったのに、何が変わってしまったんだろう。ぼくはぼく自身の変わってしまった「それ」が、わからないまま、悔しい気持ちでいっぱいだった。(「それ」がなんだかわからないというのに。)
そして、ぼく自身の存在が無くなってしまうことがとても怖かった。

でも、ぼくはいなくならなかったんだ。
ぼくの第二のせかいが誕生した。それは、瓶の中だった。
牛の栄養になったぼくは、身体の中をめぐりにめぐって、牛のお乳となって生まれ変わったのだ。
太陽との再会にとても感動したけれど、すぐに牛乳工場に運ばれ、瓶に入れられたら、ぼくは冷蔵庫を背負ったトラックに乗せられてしまった。
 

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