小説

『たぬきと小判』山波崇(『ぶんぶく茶釜』)

 (宝物でも探していんのかな。落ち葉の中に鼻先を突っ込んだりして……でも宝探しじゃなさそうだな。土をほっくり返した形跡もないし、で、ないとするとなんだろう。何かを習っているとか、だとすると……宙返りはどんな意味があるというんだ。まてまて、熊笹の小枝を使っての隠れん坊はどうだ?でも隠れん坊は一匹では出来んだろう。それにいったい他のたぬ公はどうしたというんだ、まったく姿をみせんが。まさかこのたぬ公だけが村を追いだされてしまったということもないだろうに……)
 五郎じいさんは考えに浸っていた。

 それから、何日が過ぎたであろうか、裏山に雪が舞い降りてきた。真冬の季節が白い雪と寒さを連れてきたのであった。ところどころ雪が山を覆い始めている。そのなかで五郎じいさんは、落ち葉のなかで動けなくなっているあのたぬきを見つけたのであった。ため息をつくように肩で大きく息を吐き、うつろな目とやせ細った躰からは力が抜けたように動きが感じられなかった。
「どうした。体の具合でも悪いのか」
 五郎じいさんは叫ぶように裏山に分け入ると、たぬきのもとへ走り寄った。枯れ葉の中にうずくまっているたぬきは逃げようとはしなかった。横たわりながらも積もった雪をなめている。
 どうやら、食い物もなく、体力の限界にたっしてしまったようである。
「だから、いわんこっちゃないのに」
 五郎じいさんは、家にとんで帰ると、釜の底に残っていたこげめしと、さつま芋の切れ端を抱え、たぬきのもとに持っていった。
「これ食えや、食って精をつけろ、死んでしまうぞ」
 しかし、たぬきは食い物に手を伸ばそうとはしなかった。それどころか持ってきたものを持ち帰ってくれという。
「なんで、そんなことを言うんだ。せっかく持ってきてやったのに」
 五郎じいさんは叱りつけるように持ってきた食い物を狸のそばに置くと、次の日もたぬきのもとへ向かった。しかし、昨日持ってきたこげめしとさつま芋はそのまま残されていた。なぜなのか、
「たぬきさん、なんで食ってくれねえんだ。水ばっかり飲んでいるじゃないか。それじゃ躰が弱っちゃうよ」
 五郎じいさんは哀願するようにいった。しかしたぬきは五郎じいさんの好意は好意として受け入れながらも首を大きく横に振ると、言ったのであった。
 

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