目覚まし時計のアラームが鳴った。
祥平は目を覚まし、横を見ると理美がスヤスヤと眠っていた。
変な夢を見たなと祥平は頭を掻きながら立ち上がった。
新宿に魔物とか、妹が夢遊病とか、へんなアニメの影響だろうか。
妹は、何事もなかったように朝の光の中で、まどろんでいようだ。
「引っ越しで疲れたんだな。アラームくらいじゃ起きやしない」
東京へ出てきて仕事が軌道に乗り始めたので、親戚にあずけていた理美を呼んで、この春から二人きりの生活がはじまるのだ。
故郷の友人たちがくれた名刺を入れたお守り袋は、机の上に置いてあった。いつもスーツのポケットに入れて持ち歩いている。それだけで、仕事で辛い時にはげまされるのだ。
「源太、省吾、武司……お前らもどこかで頑張って働いていると思っていたから、妹と暮らせるまでになったんだな」
今日は理美の初登校だ。
祥平は妹のために朝食を作ろうと、エプロンをつけて台所に立った。
理美が起きてきた。
「お、おはよう……お兄ちゃん……はっ」
少し肌寒いと祥平は思って、理美の顔を見ると、目を閉じ顔をゆがめていた。
「は……」
「は……はぁ……」
「はあぁぁぁ……」
祥平は慌てて、ポケットテッシュを取り出すと理美の顔を覆った。
「はい、チーンして」
理美は鼻をかみながら、ごめんなさいと言ってテッシュをゴミ箱へ捨てた。
「テッシュ、いつも持っていないといけないよ。クシャミをしたらたいへんだ」
「うん!」
理美は笑顔でうなずいた。
祥平も笑いながら、額の冷や汗をぬぐった。
――隣の町まで飛ばされるところだった。
妹のクシャミは風速百メートルなのだ。