「そおら、もう逃げられねえぞ。その女の子をよこせ。俺たちの朝飯だ」
「断わる! 理美は、俺の妹だ! お前らの朝飯ではない!」
とは言ったものの、屈強な男三人を相手に腕力で勝てそうもない。祥平はケンカが苦手なのだ。
祥平は体が震えるのを感じた。
汗に濡れた体から、まだ春も浅い朝の風が体温を奪っているのだ、決して怖いからではないと、自分に言い聞かせ、理美の前に立った。
「震えているぜ、さあ、妹をよこしな」
海賊モドキどもが迫ってくる。
そのとき、祥平は後ろから袖を引かれるのを感じた。
理美が目をつぶって顔をしかめている・
「お、お兄ちゃん……は……」
「は……はぁ……」
「はあぁぁぁ……」
理美がクシャミを!
祥平は理美の後ろへ周り、海賊モドキどもの方へ妹を差し出した。
もうどうにでもなれ。
祥平は、理美の後ろにしゃがんで震えている。
「それで良いのだ。子供さえいただけば、お前の命はたすけてやる」
海賊モドキどもは、理美の頭をつかもうと大きな手を広げた。
理美の口が大きく開いた。
「はああああああああ……」
地響きのような轟音が当たりに響いた。
ものすごい旋風が巻き起こっていた。
祥平は、理美の肩をつかんだまま背中に隠れた格好で目を閉じ突風が過ぎるのを待った。
祥平が目を開けたとき、路地にあったドラム缶も酒瓶の入った箱も、海賊モドキどもの姿も無かった。
理美は、立ち上がった祥平を見上げ、鼻水を垂らしたままニコッと笑った。
「しょうがねえなあ」
祥平は、ポケットテッシュで理美の鼻水をぬぐい、鼻をかませた。
「理美のクシャミは風速百メートルだな」
海賊モドキどもも、隣町辺りまで飛ばされてしまったのだろうと祥平はビルの谷間の狭い空を見上げた。