海賊モドキたちは、柱にボタンを取り付けて押しボタン式信号機に改造してしまったのだ。
祥平は驚き、理美の小さな手を握って走り出した。
「理美―っ、起きてくれよーっ」
祥平は自分でも情けなくなるような声をだして走った。
海賊モドキたちは、ジリジリと差を詰めてくる。
祥平は、曲がり角という曲がり角を曲がって逃げることにした。追っ手をまく常套手段だ。
ビルとビルの間の路地へ入ると内ポケットから最後の名刺がこぼれ、黄色の光を放った。
すると、路地がベルトコンベアーのように動き出した。海賊モドキたちは、走っても走っても先へ進めない。焦った奴らは、足の回転を早めたが、足がもつれて先頭が転ぶとそれにつまづき転倒した後続といっしょに路地の入り口まで運ばれた。
「タケシ、やったぜ!」
祥平は海賊モドキどもに尻を向けて手のひらで叩いた。
海賊モドキどもは、ビルの壁にボタンを張り付け、それを押した。
路地のベルトコンベアーが止まり、こんどは反対に、祥平たちの方へ動き出した。
反転スイッチをとりつけたらしい。
理美はビルの壁にもたれて、ピンク色の光に包まれてうとうとしている。
「ダメだ! 理美、逃げるぞ」
祥平は、理美の手を引いて走り出す。
このままでは逃げ切れないと祥平は、なんども理美に起きてくれるよう言い続けた。
「起きてくれっ、理美―、ちゃんと走ってくれよー」
その声はもむなしく理美は寝ぼけ顔でよたよたとついてくるだけだ。
祥平は角と言う角を折れ、路地という路地を巡り逃げ回った。
しかし、とうとう袋小路に入り込んでしまったらしかった。
薄汚いコンクリートのビルに囲まれていた。錆びたドラム缶や酒の空き瓶が入ったケースなど埃をかぶって壁に沿っておかれているが姿を隠せそうもなかった。
後ろも左右も逃げ場がない。
振り向くと、路地の入口に海賊モドキどもが黄色い歯を噛みあわせニタニタと笑いながら立っていた。