大きなランドセルが立ち上がる。入学の日。
玄関先で太郎はくるりとこちらを振り返り「ママ」と言った。
「さあ今日から小学生、なにがあってもくじけないで頑張るのよー」
明るい声をかける。
「そりゃ頑張るよー、くじけないよー、だってさ」
「だってさ？」
「ぼく、ママの子だもん」
駆け出すランドセルが左右に大きく揺れている。曲がり角を曲がって姿が見えなくなった途端、涙がとめどなく溢れてきた。
太郎は、やっぱり桃太郎だっだ。
たった6年で、わたしの中の鬼退治をしてくれたのだ。