小説

『人魚姫』山口みやこ(『人魚姫』)

日の光が燦々と降り注ぐ真っ白な店内で、思い思いに日替わりランチセットを食べながらエイミーの話を聞いた。皆エイミーに興味津々で次々と質問がされたが、エイミーはてきぱきと綺麗な文法の輪郭がぼやけた発音の日本語で短く答えた。私がペペロンチーノを食べ終わる頃には、エイミーが私と同い年であること、マンハッタンにある大学とロースクールを卒業し、ニューヨーク州の弁護士資格も取得していること、他国にある支社で仕事に空きが出ると世界中から公募されるシステムを利用して住んだ事のない国に住んでみたいと思ったこと、アメリカには弁護士が掃いて捨てるほど居る為仕事に有利になるよう大学及び卒業してからはジャパン・ソサエティーで日本語を学んでいたこと、そのため日本支社で法務の空きが出た際に公募に応募したこと、を知った。もう直ぐ1時間が経つという頃、栗色の髪の毛を綺麗に巻いた各務さんが大きな目をくりくりさせながら、
「エイミーさんは恋人とかいらっしゃらないんですか?」
と媚びが混じる声音で質問した。その途端テーブルに居た全ての女性の関心も完全にエイミーに集中するのが感じられ、私はなんだか舌打ちしたい気分になる。でも、普段だったらそんなの知ったことかと内心白けてしまうのに、今日は自分も答えを聞きたいと思っているのを感じて恥じ入るような気分になった。ごまかす様にゆっくりともう冷め始めた紅茶を口に含む。
「いいえ。今はいません。」
エイミーは相変わらず同じゆったりしたトーンで極めて感じよく答えたが、かといって詳細を自分から開示もしなかった。その上品さに怯んだのか、そもそもオフィスに戻る時間だったためか、会話はそこで自然と途切れ、食事会はお開きになった。
 

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