小説

『シンデレラの父親』日野成美(『シンデレラ』)

「お元気でいらっしゃいましたか」
「はい」
 今では身分の違ってしまった実の娘にどう接したらいいかわからずに、シンデレラの父親は恐悦していた。シンデレラはさびしげに笑う。
「気になさらないで。妃殿下なんて、お父様だけはおっしゃらないでね。わたくしも実は、この地位に慣れずにいるんです。一介の下級貴族の娘が王子様のお妃なんて、わたくし、昔は考えもいたしませんでした」
 シンデレラの父親は手の中の手袋をいじくっている。
「お父様がお苦しみになっているとモルセール男爵からうかがいました。それならば、きっぱりと、ここでお父様のお苦しみを取り払うのが、娘であるわたくしの義務だと思ったのです。わたくしはお父様を許そうと思って、今日こうしてお呼びたてさせていただきました」
 あぜんとしてシンデレラの父親は娘を見た。
「わたくしがいい子じゃないからお母様もお亡くなりになるし、継母様もおつらく当たるって思っていました。たったそれだけでした。それにわたくしは働くの、あまり苦ではありませんでしたから。ああすることで働く人の大変さが身に染みました。すべてにわたくしは感謝しているんです。ですから、ご自分をお責めにならないで」
 シンデレラの父親は娘に手を差し伸べた。それから自分の頭を抱えた。
「ああ、貴方の本当の名前は今や失われ、忘れられてしまった。貴方をどう呼んだらいいか、わからないよ」
「シンデレラでいいのです。あそこでわたくしが苦しんだことも、今の幸福のためと思えばなんのつらいことでもありませんでした」
「そこまで幸福かね」
「夫はやさしくて賢い方です。わたくしを愛しています。あの方に出会うために必要だったのだと今では思っています」
 

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