「妃殿下がおなりでございます」
侍女長が言った。それから深々と腰を折って礼をとった。反射的にシンデレラの父親もそれにならう。
ドアが従僕の手によって開く。衣擦れの音を静かにさせてひとりの若い女性が参上する。ドレスの裾からきらりとガラスの靴が見えた。彼は息を呑んだ。
「お顔をお上げください」
軽やかでやわらかな声が響いた。シンデレラの父親はおそるおそる顔をあげた。
彼の娘――シンデレラだった。
青い薄絹の上にダイヤモンドを花のように散らしたドレスを身にまとい、金色の髪を高く結いあげて白百合の花を挿している。白い腕や首元は、実家にいた当時よりも脂が乗って赤みがさし、健康的に太っているといってもいいくらいだ。この上なく美しく愛らしい妃である。
シンデレラの側には、あの雨の日に宿を貸したシャルルが、近衛兵の赤い軍服をまとい、銀色のサーベルを履いて控えている。
「あの時は多少の嘘をついて申し訳ありませんでした」
シャルルはにっこりと笑って言った。
「私の父が光栄にも国王陛下の側近でありましたから、父に骨を折っていただいて、あなたのことを妃殿下のお耳に入れさせていただいたのです」
「男爵、モンマルトル公爵夫人、みな下がりなさい。お父様とふたりきりでお話がしたいのです」
シャルルと侍女長はシンデレラに礼をするとその場を下がっていった。扉が閉じた。
沈黙がおりた。外ではひばりが無邪気に鳴き交わしている。シンデレラは父親に椅子をすすめ、自分でも腰掛けた。シンデレラの父親は体を縮こませながら、そっと椅子にかける。