「シンデレラの父としての話は以上です。ご傾聴いただき感謝します、シャルル」
シャルルはどう返したらいいかわからず、「いえ」と言ってそれきり黙ってしまった。しばらくしてからこう尋ねる。
「なぜ私にこの話を?」
「あなたに私を裁いてほしいのです」
「冗談を言わないでください。こんな青二才にそんな真似ができるとでも言うのですか?」
「私をひどいと思いますか? 正直に言ってください」
「ひどいです。実の娘を虐げる、それを見て見ぬふりするのはひどい罪です」
声を励ましてシャルルは言った。
「そう、そのように言ってほしかった」
シンデレラの父親はさびしげにほほえむ。
「私のことをシンデレラは覚えていてくれない。だから私は裁かれないし、許されもしない」
「それがあなたに下された裁きなのではないですか?」
はたとシンデレラの父親は顔をあげた。
「孤独という罰です。違うでしょうか?」
柱時計が十一時を打った。と同時に、遠くから城の時計塔の重い鐘の音も響いてきた。雨はもう止んでいる。かすかに虫の声がする。シンデレラの父親は立ち上がった。
「夜も更けてしまいました。今宵はありがとう。もうお休みになってください」
それからシンデレラの父親は軽くシャルルと握手をし、なにを言わせる暇もなく自分の部屋へと引き上げていった。
老僕のヴァロワが「寝室へご案内します」言った。
「旦那様はお嬢様が王家へ嫁がれてから、ずっとああしておいでです」
ろうそくの頼りない灯火を掲げてシャルルを寝室に案内しながら、ヴァロワは低い声で言った。