シンデレラの父親はシャルルに向かって微笑んだ。
「そこから先は、あなたもご存知の『シンデレラのお話』ですよ」
ばちんと薪が暖炉ではぜる。老僕が火かき棒で炭を崩した。
「シンデレラの婚礼には私も出席することを許されました。同じく出席した妻と継娘たちはいい見世物でした。妹娘のほうは泣き出す始末です。ともあれ、大聖堂で華々しく婚礼は執り行われ、晴れて王子の妃となったシンデレラは夫と腕を組み、人々から祝いの言葉を受け、頬を染めたり笑ったり、おじぎをしたりしていました。あんなに嬉しそうで幸福そうな娘を見るのははじめてでした。その群衆の中に私もいました」
シンデレラの父親のさめるように青い眼の中に、深い苦痛と苦悩が浮かんだのを、シャルルは見た。
「そう、たしかに娘は私の姿を認めました。私はぎこちなく笑い、手を振って見せました。しかし彼女は不快そうに眉をよせてその美しい眼元を伏せると、そのまま無視して行ってしまったのです。あの表情が今でも私には忘れられません」
稲光はいつの間にか遠のいて、ざあざあと雨の音だけが激しい。シャルルはようやくワインに口をつけた。
「妻と娘たちは、妻が所有している荘園で隠れ住んでいます。この屋敷は曽祖父の代からあるものですから、私が管理しなければなりません。私はここでひとり書斎にこもって、書物を読んだり庭の草木を相手にしながら、ただ静かに暮らしているのです。誰からも忘れられて、誰からも顧みられないまま」
それからシンデレラの父親は一気にワインを飲み干すと大きく息をついて、膝の上で手を組んだ。