「妃殿下、王太子殿下がお呼びとのことでございます」
外から侍女長の声がかかった。シンデレラは衣擦れの音をたてて立ち上がる。シンデレラの父親は娘にうながされて立ち上がった。だしぬけに彼女は言った。
「お父様、わたくしと王宮でお暮らしになりません? 殿下に――夫にとりなして、いっしょにここで。お顔を見せてくださるとわたくしも安心ですの。継母様やお姉さまたちはもういっしょに暮らしておられないのでしょう? ねえ、いかが?」
「もし貴方と暮らすことになったら、私はユージェニーに二度と会えなくなる。おそらく……」
シンデレラの父親は苦しげにほほえんだ。
「私はいまだに、貴方よりもユージェニーのほうを強く愛しているのです。今こそ別々に暮らしていますが、私にとって彼女は失いがたいひとなのです。彼女とこれ以上、離れたくない。今こそこのような境遇ですが、いずれまたいっしょに暮らせる日をふたりとも、夢見ているのですから」
痛いほどの沈黙が一瞬だけおりる。
「私は遠くから貴方のお健やかたらんことを、お祈りさせていただきます」
シンデレラは王太子妃として儀礼的に手を差し出した。父親は娘の手に口づけた。
「お体にお気をつけて。お父様。どうかこれからはお父様の望まれるまま、お好きにお生きになってください。――わたくし、本当にお父様が大好きでしたのよ」
シンデレラはそっと父親の手を取るとやさしくキスした。一瞬悲しげな影がその眼にさした。シンデレラは踵を返す。外に控えていたお付きの侍女たちに付き添われて、部屋を出、廊下を曲がって消えていく。
「あの子は幸福でしょうか」
シンデレラの父親は側に立ったシャルルにたずねた。