シンデレラは、ただただやさしい微笑みを父親に向けている。灰をかぶってかまどの前に立っていたあの頃と同じ、純真無垢なおだやかな微笑みだった。彼はあの時のことをまざまざと思い出した。罵声をかけられながら、食事の用意をしながら、厠の掃除をしながら、舞踏会に行く姉たちのドレスを整えながら、髪を結い上げてやりながら、彼女はやさしく微笑んでいた。
「シンデレラ、貴方に私を裁いてほしい」
堰を切ったように彼は言った。シンデレラは微笑みを深め、おおようにうなずいて言った。
「もうすっかり許しておりますとも。わたくしは、お父様を罰せません。そうしたくないからです。継母様も姉上様たちのことも、わたくしはもう恨んでいません。ただわたくしには、今の幸福がある限りです。わたしは、お父様が幸福であることをお祈りしています。お父様も、わたしが幸福であることをお祈りしてください」
シンデレラの父親は娘の穏やかな微笑を食い入るように見つめた。胸に湧いてきていたのは、なんということか、怒りだった。なぜこんなにあっさり許すのかが理解できなかった。自分よりもまぶしい魂を持った存在の前で、ただ自分は卑屈になるしかない。それが屈辱のような気さえした。けれども自分は確かにこの娘に対して罪を感じ、裁きと許しを望んだのだ。
だからこれでいいはずなのに。
今なら妻がこの娘を憎んだ理由がわかる気がする。
彼は体をふたつに折って頭を抱えた。西空から雲が湧いてきて、窓から差しこむ日差しが徐々に弱まっていく。時間だけがむなしく流れる。
ノックがあった。