そういえば、あの父親は裁かれたのだろうか?
新しい王子の妃は美しく気立ての良い、この上なくやさしい気質の人と評判だった。そして彼女がそれ以前に受難者だったということは人々の同情と好奇心を惹いた。継母から下女同然に扱われ、継娘たちからは嫌がらせを受けていたというその境涯にいても、シンデレラ――妃はこういう名前で人々に愛されていた――は、やさしさと穏やかさを失わなかったという。
シンデレラの婚礼のあと継母と継娘は都から離れ、自分たちの荘園へと逃げ隠れるようにして暮らしはじめた。人々は彼女らに罵詈雑言と石を投げつけた。また王子は彼女らの財産の半分を没収した。半分で済んだのはシンデレラのとりなしがあったからとすら言われている。
――父親は?
ひとしきり騒ぎがおさまりかけたあと、人々の間にそんな問が浮かび上がってきた。もう死んでいるという者もあれば、いやまだ生きているという者もいた。しかしシンデレラの父親はこの事件において、なにも役割を果たさなかったのではないか?
さて、実際はどうだったのだろう?
ある春の嵐の夜のことである。ひとりの旅人が宿を求めて、風雨を割いて都中の宿をあたった。しかし、復活祭を控えて巡礼者が都の大聖堂目当てに殺到している時分で、宿屋はどこも満室である。
「うちは駄目だけれどもね」
途方に暮れた旅人に、最後にあたった宿の女将はいわくありげな顔で言った。
「あそこのお屋敷なら、うまくいけば一晩くらい泊まらせてくれるかもね」