小説

『花簪』神津美加(『瓜子姫と天邪鬼』)

「なぁ、今、あの子がこっち見たんじゃねぇか?」
「んなわけあるかよ」
「そうだよなぁ。しかし、綺麗なもんだなぁ」
 カラスが感嘆の息を洩らすと
「どこがだよ。化粧ごてごてでさ、あれなら素顔の方がまだマシだぜ」
 言葉と裏腹に、天邪鬼はまだ目を逸らさずに見つめている。
「お前さんは、本当素直じゃねぇよなぁ」
 揶揄かって笑うカラスに、天邪鬼は「うるせぇや」とその頭をぽかんと叩いた。
 強い風が吹く。天邪鬼は咄嗟に髪を手で押さえた。その前髪には、花の簪がしっかりとつけられていた。

 

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